自治体優秀まちづくりグッズ賞の授賞について
本会では、創立60周年を迎えるにあたり、記念事業の一つとして「自治体まちづくりグッズ賞」を企画し、自治体を中心とした都市計画・まちづくりにおいて、市民にわかりやすく伝える工夫や市民意識を啓発するような表現で、市民との間をつなぐ役割を果たしてきたグッズを広く募集いたしました。 自薦・他薦により、予想を上回る多数のご応募(202点)をいただき、多くの自治体で独自の知恵と工夫に基づくグッズが生み出され、活用されていることを再認識することができました。皆さまのご協力に、深く感謝いたします。 優秀まちづくりグッズ賞の選定にあたっては、(1)登載情報・内容・デザイン(必要な情報が盛り込まれ、わかりやすい説明・構成でデザイン性に優れている)、(2)今後のまちづくりへの発展性(作成プロセスに市民との連携等の工夫があり、まちづくりへの発展の可能性が見出される)、(3)地域特性などの表現の適切性(地域の特性が反映され、表現にユニークさや独自性が感じられる)、という指標にもとづき、情報委員会ワーキング6名により、点数評価を行いました。そして、評価点の上位30件を抽出し、さらに、各支部長の審査を経て、優秀まちづくりグッズ10件を選定いたしました。 最終的に、理事会にて、当該10点を「優秀まちづくりグッズ賞」とし、他の20件を「佳作」とすることに決定いたしました。 優秀まちづくりグッズ賞の授賞理由は下記の通りです。 審査プロセスの過程では、平成の大合併で合併した市町村によるグッズもあることや、制作資金によるグッズの品質の格差、まちづくりの熟度による内容の相違など、これらを一律に審査することに、懸念を示す声もありました。 しかしながら、自治体のまちづくりグッズを一同に集め、その成果を確認し、これらを情報として広く公開することにより、次への自治体まちづくりの展開につなげることが、今回の企画の意図するところです。審査では、公平性を保つため、制作の目的・推薦理由を十分考慮しながら行いました。 これらの主旨にしたがって、ご応募いただいた202件のまちづくりグッズはすべて学会のホームページに掲載し、優秀まちづくりグッズ及び佳作を受賞した30件のグッズについては、60周年記念事業を開催する学会会場にて、展示させていただくことにいたしました。 地方分権下の都市計画・まちづくりにおいて、必須ともいえる自治体と市民の協働を図っていく上で、各地で試みられてきた創意工夫の一面を多少なりとも概観できればと祈念します。 情報委員会ワーキングメンバー:加藤仁美(東海大学)・饗庭伸(首都大学東京)・秋田典子(千葉大学)・阿部貴弘(国土技術政策総合研究所)・桑田仁(芝浦工業大学)・薬袋奈美子(日本女子大学) 【自治体優秀まちづくりグッズ賞(表彰対象:10件)】
作品名:まち本・ミニまち 制作団体:札幌市都市計画部
都市計画の制度等について、より多くの住民に理解を得ることは大切ではある。札幌市の作成した2つの冊子は、読者の視点から都市計画がわかりやすくなるよう意識して作成されており、他都市でも参考になる点が多い。
“ミニまち〜さっぽろのまちがわかる小さな本”は、小学生にも手に取って楽しみながら都市計画への理解を促すことを意識して作成されている。最初に都市計画のルールについて都市計画図(地域地区)をベースに説明をした後に、都市の歴史を写真やデータを使いながら説明し、美しいまちなみをつくることについての説明を、漫画風に紹介している。また“まち本〜まちづくりに役立つ都市計画の本”は、都市計画の位置づけや基本的な考え方の説明等もわかりやすく噛み砕いて紹介されている。
これらの冊子は、無料配布や小学校での配布等を通し、多くの市民の目に触れるような方法をとっている点も評価できる。また“まち本〜まちづくりに役立つ都市計画の本”は、この冊子を用いたラジオの連続講座を2005年に実施し、その内容を現在でも市役所のウェブサイトから聞くことができ、関心を持った市民がいつでも利用できる。このような点から、札幌市の2冊子を優秀グッズ賞の対象とした。
作品名:都市景観啓発パンフレット 制作団体:川越市都市計画部都市景観課
「小江戸」としても知られ、伝建地区に残る店蔵に代表される歴史的建築物の保全・活用と、都市的な賑わいの両立をめざすまちづくりを進めてきた埼玉県川越市では、景観の保全・創出やまちづくりのルールについて、パンフレット等で積極的かつ継続的な情報発信を行っている。 これらの多くは、江戸時代からの建造物や都市形成に加えて、近年のまちづくりの歴史をしっかりと振り返りながら、建築・都市・まちづくりのルールやデザインガイドライン、あるいは景観施策を分かりやすく説明している。加えて、いくつかのパンフレットでは、基本デザインやレイアウトを市職員が自ら担当するなど、担当部署が都市景観・まちづくりの普及・啓発に対して、主体的に取り組んでいることがうかがえる。 以上より、川越市がこれまで発行してきた都市景観・まちづくりに関する一連のパンフレットは、優秀グッズ賞にふさわしいと評価した。
作品名:パンフレット:震災復興公園+冊子:企画展「明治・大正・昭和−時代が生みだした東京の公園」+DVD:震災復興公園 制作団体:東京市+公益財団法人東京都公園協会緑と水の市民カレッジ事務局
1923年に発生した関東大震災では、東京市の46%が焼失し、死者10万人の被害をうけている。本年3月11日に発生した東日本大震災の後に、本グッズの「震災復興DVD」を改めて観ると、震災復興公園という新しい空間に込められた当時の人々の復興にかける熱い想いが強く伝わってくる。震災復興公園は3つの大公園と52の小公園で構成されており、このうち小学校と隣接させ校庭の延長として整備された小公園は、防火帯や避難所としてだけでなく、地域コミュニティの中心としての役割も兼ねていた。このような復興空間のアイデアも、現在の復興計画と重なって見えてくるのではないだろうか。残念ながら、震災復興公園の多くは改変・消滅し、当時の姿で残っているのが元町公園のみであるため、本グッズを構成する34か所の震災復興公園のパンフレット等は歴史的な資料として貴重な価値があるものとなっている。しかし、関東大震災後の震災復興公園の誕生を映像化した震災復興公園DVDは、今こそ広く市民に公開される価値のあるものだと考えられる。公開へ向けた取り組みを含め、優秀グッズ賞にふさわしいものと評価した。
作品名:新宿区 景観まちづくりガイドブック(No.01〜10) 制作団体:新宿区、東京大学、早稲田大学、工学院大学
「新宿」と聞けば、東京都庁に代表される超高層ビルが林立する副都心地区、日本有数の乗降客数を誇る新宿駅、あるいは盛り場としての歌舞伎町、といった都市的なイメージを思い浮かべることが多いのではないだろうか。一方で、微地形を生かした江戸時代からの町割りが今なお残る、居住空間としても豊かな個性を持つことはあまり知られていない。この「新宿区景観まちづくりガイドブック01-10」では、新宿区を10の地区に分け、それぞれA5版70〜100ページというかなりのボリュームを使って、景観の見方・読み方をビジュアルに分かりやすく示しながら、地区の細かな特徴の紹介、あるいは今後の景観づくりの方向性の提示を行っている。これらの膨大な作業を、景観に関心を持つ複数の大学研究室が協力して行っていることも特筆すべき点である。 以上より、新宿区景観まちづくりガイドブック01-10は、優秀グッズ賞にふさわしい冊子であると評価した。
作品名:参加のデザイン道具箱 制作団体:世田谷まちづくりセンター(現(財)世田谷トラストまちづくり)
わが国で、参加型のまちづくりを進める「ワークショップ」の方法を具体的に紹介した原点となる図書であり、1993年の発行以来、現在もまちづくりに関わる者に読み継がれる名著である。本グッズは、専門領域のブラックボックスとなりやすい計画案づくりや設計作業を透明化し、住民が参加可能なものとすることを目的として制作された図書であり、A4横型の読みやすいレイアウトや効果的な写真や挿絵の配置から、この時期のワークショップにかける期待や想いが感じられるものとなっている。また、1993年に発行された「参加のデザイン道具箱」を補完・発展させるため、Part2(プロセスデザイン:事例とワークショップ:1996)、Part3(ファシリテーショングラフィック:1998)、Part4(子どもの参加:2002)が発行されており、4冊全体でより完成度の高いマニュアルとなっている。本グッズは、世田谷区の実際の公園や施設計画のプロセスを取り上げ、住民参加による空間づくりの豊かさを具体的に示すことにより、更なる住民参加を推進したと言えよう。よって、優秀グッズ賞にふさわしいものとして評価した。
作品名:新潟のまち 小路めぐり<本町界隈編><古町界隈編>・新潟下町あるき 日和山登山のしおり 制作団体:新潟市地域・魅力創造部、roji-ren niigata
新潟市の旧市街地(中央区新潟町)は、明暦元年に海岸寄りから信濃川に近い場所に移転してできた町で、水運のため、南北方向に2本の堀(寺町堀・片原堀)とその間の通り(古町通・本町通)と、これに直行する東西方向5本の「横堀」と「小路」で構成されていた。堀は埋め立てられたものの、町並みや小路は残り、これらの小路の由来などを掲載した「小路マップ」や「小路案内板」を契機に、市民有志と行政職員が協働で作成したのが、この「まち歩きマップ」である。 持ち歩きやすい蛇腹折り(8折)形式で、町の歴史や見やすい地図、写真やイラストで、小路の由来と風景がわかりやすく紹介され、デザイン性にも優れている。観光案内、地域の商店街や祭り、小中学校の総合学習など、幅広く活用され、湊町の町並みや小路、史跡を再評価する重要なまちづくりのツールとなっていることがうかがえる。 よって、優秀グッズ賞にふさわしいマップとして高く評価した。
作品名:「みんなで考えよう!わたしのまちづくり」(石川県まちづくり読本(小学生版・中学生版))、同手引き書(先生用)) 制作団体:(財)いしかわまちづくり技術センター・石川県土木部都市計画課
子供のころから、自分たちの暮らすまちについて知り、まちづくりについて学ぶことは、まちへの誇りや愛着を醸成し、まちづくりの原動力となる人材を育むうえで、きわめて重要な取組みであると言えよう。しかし、いったい何から、どのように取組めばよいのか、その実践は容易なことではない。 『みんなで考えよう!! わたしたちのまちづくり』は、そうした子供たちのまちづくり学習の実践を支援するグッズである。小学生版と中学生版の2版が作成され、さらに、それぞれ先生向けの「手引き書」も用意されている。その内容は多岐にわたり、基礎調査の方法にはじまり、都市計画の仕組みやプランニングのプロセスにいたるまで、写真や図版、イラストを用い、実にわかりやすく解説している。また、一般論にとどまらず、まちの成り立ちやまちづくりの身近な事例を紹介するなど、地域特性を十分に踏まえた内容となっている。 このように、本グッズは、石川県内はもとより、全国のまちづくり学習の実践にも参考となるたいへん貴重なテキストであることから、優秀グッズ賞にふさわしいものとして評価した。
作品名:伊勢市の「成長する都市マスタープラン」まちづくりグッズ群 制作団体:伊勢市建設部・伊勢市都市マスタープラン策定委員会・市民ワークショップ運営委員会・三重大学浅野研究室・早稲田大学後藤研究室・まちづくりブック伊勢制作委員会
「成長する都市マスタープラン」をコンセプトに、10年間という長期間にわたり、市民・専門家・行政の協働で、都市マスタープラン策定に取り組むプロセスの中で生まれた一連の成果物である。 更新時に加除可能なファイル形式の「都市マスタープラン(全体構想・地域別構想)本編・策定資料集」、イラストや写真等わかりやすい表現に配慮した「概要版冊子」と「市民ワークショップ・リーフレット(地域別)」、策定段階の詳細な記録として遡及性をもつ「市民ワークショップ・記録ノート(地域別)」、まちの見方やまちづくりへの手引書を意識して中高生にもわかりやすく編集された絵本「まちづくりブック伊勢」が、そのグッズ群である。 市民参加が謳われた都市マスタープラン策定にあたり、行政・市民の協働を実現するツールとして、当時としては、先駆的に試みられたグッズ群であり、その後の全国への波及効果は、非常に大きいものであった。 以上より、優秀グッズ賞にふさわしいグッズ群として評価した。
作品名:幻の都・恭仁京と名宝・加茂の三塔を活かした民学官による観光まちづくりプロジェクト「恭仁京/10ペーパークラフト」「見える恭仁京!クリアファイル」「デスクトップ恭仁京ポストカード」 制作団体:木津川市学研企画課企画政策係
1000年以上も前に都があった地域では、その史実が地域アイデンティティと深く関わっており、地域の重要な資源であると十分理解されていたとしても、現実的には土台しかない史跡をもとに当時の雄大な姿や景観を想像することは容易ではない。まして、本グッズで対象とされている恭仁京は、たった5年あまりで廃都された都市である。本グッズは、実物の10分の1の大きさのペーパークラフト、ポストカード、クリアファイルの3点セットで構成されており、恭仁京を多様な手段を通じて再現することを目的としている。中でも審査員の目を引いたのが、「見える恭仁京!クリアファイル」であった。このクリアファイルは地図上に示されたビューポイントに立ち、背景となる山の稜線をガイドとして、クリアファイルを透かして見ることにより、クリアファイルに印刷された大極殿や七重塔を当時の姿に再現して見ることができるようになっている。これは、ビューポイントに人をいざなうと同時に、非常に手軽に持ち運べ、望遠鏡をのぞくような楽しみもある新しいアイデアに溢れるグッズである。よって、優秀グッズ賞にふさわしいものとして評価した。
作品名:10代が描く唐津のみらい/Teens KARATSU Project 2030 制作団体:唐津市内中高生27名・早稲田大学卯月研究室唐津プロジェクトチーム・唐津市役所
「都市計画マスタープランを市民にわかりやすく、夢を現実(かたち)にする主人公は市民」という市長の発案で、20年後のまちの将来を担う市内の中高生で立ち上がったプロジェクトにより、生まれた本である。しかしながら、マスタープランの副読本の域を大きく超えた内容となっている。 市域全域を「まちなか」「みなと」「虹の松原」「海のまち」「山里」という地区ごとに、中高生27名が、まちを視察し、歴史やまちの人々を取材することにより、まちの物語を生き生きと語り、昔の写真や地図、手作りの絵などとともに、未来につなげるための課題や提案を示している。いずれも、自然に恵まれた市民の生業や生活の延長上で実感できる、夢のある提案になっている。海や山からみたまちの俯瞰図や未来に残したい風景写真も掲載され、どのページにも生活景が映し出され、都市計画の本質を考えさせる好書である。よって、優秀グッズ賞にふさわしい読本として高く評価した。 【上記に次ぐ、佳作(20件)】
【上記以外:エントリ全件一覧(172件)】
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